2017年10月10日火曜日
眠らせてください
季節はすっかり秋めいてきましたね。
朝晩は寒いくらいに冷え込む日も出てきました。
みなさんはお元気にお過ごしでしょうか?
ガンを罹患し4度目の秋がめぐってきたわたしの近況です。
わたしたちガン患者はガンという言葉や文字に敏感に反応してしまいます。スマホのニュースアプリを眺めていても新聞を読んでいるときも、「ガン」という文字を見つけると食い入るようにその記事を読みます。同じガン患者のブログや医療の最新情報に何かしらのヒントはないかと真剣なまなざしで記事を読みます。
そんなある日、末期ガンに罹った医師の日常をたどったテレビ番組を見ました。
「ありのままの最後」というNHKの番組。ガンを罹患しながらも、同じガン患者のためにホスピス的な病院を奥様と二人三脚で運営なされている。月に一度、ガン患者さんの悩みや疑問などを聴く会を開いておられる終末期の看取りのプロ。僧侶の資格をも持つ医師、その人が逝くまでの物語でした。
はじめはなんら変わりのないその姿。がん患者でありながら、お酒を美味しそうに飲みながら心が喜べば良いのですと意に返さない。私たちガン患者はお酒も身体によくないと敬遠しているけれども、「心が喜べば良い」と言う言葉にそうだなと思う私。
そう、「心が喜ぶ」ことってたくさんありますよね、どこか遠了しがちに好きなことまでも我慢していませんか?少しでも長く生きるために心にカギをかけてはいませんか?本当はこうしたい、弱っていく体ではあるけれども偽りの心で生きていませんか?そんな私たちに医師は我慢もほどほどにしなさいとおっしゃっているようです。
それから数日が過ぎ医師の体に変化が起こります。明らかに弱っていくその姿に心が痛むとともに驚きを感じた私。ガン患者だけではなく人は逝く間際にこんなにも変わってしまうのか?最後の一か月間で急速に悪くなると言われるがん患者の姿がそこにありました。
やがて、一人では起き上がることもできないくらい弱っていく身体。医師は取材のなかで「ありのままの姿」を撮っていいよとスタッフに告げていました。変わりゆく自分の姿をありのままにと勇気がいる言葉。私ならどうする?…自分自身が弱っていく姿はやはり見せたくないと思う。まして、意識があるうちはそうすると思います。
日が経つにつれてどんどん変わっていく医師の姿、まるで赤ちゃんに戻っていくように時間だけが過ぎていきます。 懸命に看護する家族、少しでも、少しでもと医師に寄り添います。まるで赤子をあやすように時には微笑みながら、時には悲しみながらそう長くはない時間を精一杯、心の奥底に刻むように奥様は介護していくのです。しかし、時は残酷にも残された時間を季節と共にきざんでいきます。
医師に変化が起こります。せん妄、せん妄という症状が表れてきました。意識は混濁し錯覚や幻覚、妄想、興奮などの症状が医師にみられるようになってきました。ベットを起き上がり部屋のなかを動き回る、点滴を抜いたり急に怒りだしたりと家族にとっては辛い時間が始まりました。
何かにすがるように医師はくりかえし「眠らせてください」「眠らせてください」と訴えかけます。時には涙をうかべながら「眠らせてください」と奥様をせめる医師の姿。私は「眠らせてください」=「死なせてください」と心に響いてくるのを感じました。残された時間のなかで最後の医師の願いとも言える言葉「眠らせてください」そして、医師でもある奥様はある決断をしなければならないのです。伴侶との別れをも意味する薬を使うことに決めたのです。
いよいよとその時が来たら麻薬系鎮痛剤を使ってくれと医師は言っていました。その薬を使うと眠るように最期を迎えられるそうです。一日のほとんどを眠ったままになる薬。
もう、あなたのステキな微笑みや心にとどく言葉も聴けない。眠ったままのあなたにしてあげられることも数少なくなっていく。そして、その時は静かにやってきました。
横たわる医師の姿、胸元には短刀が添えられ、顔には白いものがかぶせられている。「旅立たれたのですね」まるで眠っているかのような穏やかな顔。やっと「眠れましたか」私は心のなかでそう呟いていました。あなたの歩んだ道、精一杯生きたあなたの姿をわたし達は忘れません。ガンに冒されながらも最後まで医師としてふるまわれたその姿を。
ガンを罹患しながらも仕事に励んでいられるみなさん。
病院のベットの上で懸命にガンと闘っていられるみなさん。そして、最後のときを自宅で迎えるべく静かに時を過ごしている皆さん。人は誰もがいつかは死を迎える。それは避けられない事。その日が来るまでどう生きて行くべきか?悩んでいるガン患者のみなさん。
「ありのまま」そう「ありのまま」でいいのです。
最後に
懸命に生きた医師、それを支える家族の方々に学んだ「生きる」という事。
「ありのまま」で生きる、肩ひじ張らずに背伸びをせずに。起こるすべてを受け入れ生きていく。どんな姿になろうともそれは自分なのですから。今は働いていられますがやがて来るその日まで一日一日を大切に家族に感謝しながら「ありのまま」を受け入れたい。
そう「ガンと友に生きる」私ですから
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