2017年8月28日月曜日

ネクサバール


京の夏の風物詩 五山の送り火


 京都に夏の終わりを告げる五山の送り火を嵐山渡月橋の上から眺めています。
今年も見られる喜びと、来年は見られるのかな?の思いが心の中で揺れ動く。
そう、川面を流れる精霊流しの灯りのようにゆらゆらゆらと。


 朝のひんやりとした空気に秋の訪れを知る。
涼し気な虫たちの声と少し遅くなった日の出とともに爽やかな風がわたしの心を癒してくれる。
諸所で感じる秋の気配に「また、この季節が巡ってくれた」と微笑むわたし。
そして、あの日を思い出すのです。

宣告


 「会いたい人がいれば今のうちに」と医師に言われ、愕然としたあの日をです。
余命半年と告げられ、周りの景色が一変したあの日から2年と少しが経ちました。
ガン細胞が再発し肺やリンパ、骨などに転移し、肺へとつづく血管に増殖し始め、肺塞栓の危険が高まっていたわたし。
放射線治療と抗がん剤による化学療法が開始されたばかりの話です。

 抗がん剤の名はネクサバール(ソラフェニブ分子標的薬)

この薬のおかげで生き延びたと言っても過言ではないわたしですが、当初はまったく効果がでませんでした。
焦るわたしは意を決して医師に尋ねたみます。
 
 「先生、わたしの寿命はどれくらいですか?」

答えは半年もつかどうか?と厳しいものでした。
そんな抗がん剤が劇的に効果を表し始めたのは、投与から3ヵ月経った頃でしょうか。
みるみる小さくなるガン細胞に生きる望みが湧いてきました。
先生方も驚くほどの効果に信じられない私でしたが喜びもつかの間、抗がん剤の副作用に苦しめられていくのです。

手足症候群


 チクチクとした痛みに始まり手足の皮膚が赤く腫れあがってくる。
重症化すると歩けないほどの痛みに苛まれ、QOLが著しく低下する副作用にわたしは苦しみました。
ネクサバール投与をはじめて半年が経とうとしていた時です。

 保湿剤を用いた対処法でやり過ごしていましたが、耐えきれず再度の入院を余儀なくされたことを思い出します。
それでも命があるのだからと前向きに考え、日々耐えていましたね。

 そして、モルヒネの投与も始まり幾分楽になってきたころに脱毛、食欲不振、味覚障害と次々にネクサバールの副作用がわたしを襲います。
身体中の毛が抜け落ちツルツル状態、男のわたしでさえかなり落ち込みましたが、髪は命と言われる女の方の落ち込みは相当なものだと実感しました。





 そして、何より辛かったのは味覚障害。
食べたものに味がない、辛い物、甘い物、酸っぱい物など何を食しても味がない。
当然ですが、美味しくもなく体重がどんどん減っていきました。
しかし、わたしよりも辛かったのは妻ですよね。
何を食べさせればいいのか?わからない。
食べさせても美味しくないと言うわたしにほんと、困り果てたと言っていました。
栄養を考えながら、わたしの好物を言われるままに作るしかなかったと。

 そんな状態も月日と共に改善していき今があるのです。
ネクサバールの投与がつづくなか、薬の量を調整しながら2年あまり、髪の毛も戻り、手足症候群もすっかり改善しましたが、新たな問題手足のしびれに悩ませられる日々です。
こればかりは改善しません、他に原因があるのかと?整形外科や皮膚科など検診しましたが行きつく先はネクサバールの副作用。
モルヒネとレスキューで対応している状況です。

 抗がん剤が悪だと言われる医師もおられます。
いろんな書籍が書店に並び、ネットではいろんなガンに関するサイトが氾濫している。
QOLを低下させるだけだと書いてある、新たな病気を呼び込むだけだと書いてある。
どれを信じ、どれを選ぶかは自己責任。

 しかし、わたしは生きている。
 半年と言われた命を生きている。

 考え方は人それぞれですが、私の場合は標準治療を受けて良かったなと思っています。
医師との信頼関係、緩和ケアのサポートと恵まれた環境でのガン治療。
そして、何よりネクサバールがわたしの命をつなぎとめてくれたこと。
わたしの体に合っていた薬だったことがすべて。
感謝、感謝です。

 結果論ですが、医師が治療前に言われた言葉を思い出します。
 「抗がん剤もいろいろあり、どれが効果があるかはわからない」
ネクサバールもおなじで効果なく命を落とす方もおられると言われていました。
わたしも投与開始後しばらくは効果なくあきらめかけていました。
しかし、何が起こるのかは医師にも誰にも分からないのです。

 諦めないことが大事だと感じた2年余りの闘病生活ですが、転機が訪れています。
恐れていた抗がん剤の耐性、ガンを罹患しているという現実。
ガン治療と仕事の両立ができるまでに回復し、ガンのことなど忘れかけていたわたし。
でも現実は甘くなく、確実にガン細胞が増殖しているのです。
このままだと「また、悪くなりますよ」と言う医師。

 京都の夏が終わりを告げるころ、新たな抗がん剤治療がはじまります。
それはどんな風にわたしの体に作用していくのか?副作用はどれほどなのか?仕事はやっていけるのか?
まったく分からないけれども生きるため。

「ガンを友に生きる」ために頑張るしかありません。

来年も京の夏の風物詩、五山の送り火を見るために。



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